香りの軌跡

仕事が終わり、オフィスから外に足を踏み出す瞬間、タスクからの開放感とともにマスクを外す。そのとき、夜の街に漂う香りが高校時代に友達とか彼女と遊んだ帰り道の情景を思い出させて、大阪の風景が恋しくなる。

 

五感を駆使して、私たちは一日一日を身体全体で感じながら生活している。特に経験上、嗅覚の記憶は長い年月が経ってもあまり薄まることはなく、特定の香りは鋭く過去を呼び起こす。

 

しかしコロナ禍の数年間、マスクはこの私たちの嗅覚を封じ込めてきた。この期間の私たちの思い出。それがどんなにエキサイティングで、平和的で、もどかしくて、涙に濡れるものだったとしても、嗅覚が塞がれていれば、それだけ我々の思い出が欠けてしまうということ。マスクフリーの生活が再開するが、これからどんな臭いや香りが漂ったとしても、マスク生活期間の記憶がフラッシュバックすることはないだろうことが寂しい。こればかりは取り返しがつかない。

 

それと同時に、これから再び五感をフル稼働させて日常を味わい、自分の中に取り込める日がやってくる。これまでより一段と豊かな生活が待っていることを楽しみに、前向きに生きて行こうと思う。